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2008.12.18

なぜジャンパーは拍手を求めるのか

 ぼんやりとは知っていましたが、真相を本人から聞いてきました。きっとこれは疑問に思っている人も多いでしょう。なぜ跳躍の選手は、自分たちが跳ぶ前に拍手を求めて、それに観客は合わせるのか。
 陸上界では常識ですけども、他の世界から見るとあの行為は相当不思議に映るはずです。いったい陸上競技場のあのコンセンサスはなんなのでしょう。


 とある日のストックホルムでした。またも主役はウィリー・バンクス。実は前日に大変な事がミーティングで決まっていました。
 陸上競技の興行化が進み始めた頃です。お客さんを呼ぶことができる種目に絞り、そこに集中させていく。選択と集中、陸上界にも淘汰の波が来ていました。集客できる種目に集中し、呼べない種目は行わないという方針が決まったのです。三段跳は行わない方に分類されてしまっていました。ストックホルム以降の大会では三段跳は行わないという通達がおりていたのです。
 
 国際的には日本より選手会というものが機能しています。怒ったウィリー達(三段跳の選手)は必死で対応策を考えました。長時間話し合いましたが、いいアイデアは浮かんできません。結局いったい何をしたらいいのかわからないまま翌日が来てしまいました。

 何をしたらいいかわからないままグラウンドに立つ選手たち。そんな中、「もうこうなったら、とにかく今日できるベストパフォーマンスを見せるしかない!」とウィリーは決意していました。気合いが入ります。

 ウィリーの跳躍の順番が来ます。ウィリーのルーティーンはパンパンパンと拍手を叩いて、ブンブンブンと大きく腕を振ってからスタートします。これはずっと行っている動作です。いつもより気合いが入るウィリー。大きくパンパンパンと手を叩きます。
 北欧は寒い国です。古い昔から身体を温めるためにアルコールを使ってきました。酔っぱらいが多い国でもあります。よくある光景ですが、グラウンドの端に陣取った酔っぱらいがウィリーの真似をしてパンパンパンと手を叩いてからかいました。
 むっとするウィリー。もう一度心を統一し直してルーティーンをやり直し、パンパンパンと拍手をします。また真似する観客たち。今度は無視してウィリーは助走を始めました。16m後半、まあまあの数字です。なんだか気分の良くなったウィリーは戻ってきて大きくお辞儀をします。酔っぱらい達が大きな拍手で応えました。

 次の跳躍も同じようにウィリーが助走を始めようとルーティーンに入りました。今度はその酔っぱらいの周りの観客達がみんな手を叩きます。俄然面白くなってきたウィリーはそれを煽るようにオーバーに動いて助走に入りました。17m前半、大きく観客が沸きます。

 次の跳躍ではホームストレート側がほとんど拍手をするようになっていました。ウィリーは更に記録を伸ばします。湧く競技場。3回の跳躍を終えて、ベスト8が選出されました。

 段々と巻き込まれていった観客。気がつけばウィリーの最後の跳躍の時には競技場全体が一つになって手拍子をするようになっていました。しんと静まり返った競技場で響く拍手の音、大きく煽るウィリー。それまでよりも大きなフォームでスピードに乗ったウィリーは、今日一番の大きな跳躍を見せました。17m後半、ヨーロッパ新記録を上回る跳躍です。競技場が揺れんばかりに沸き立ちます。

 湧く競技場の主役であるウィリーはウイニングランをし、そのまますぐ大会本部に駆け込みました。集まっているミーティングディレクターに進言します。
 
『三段跳びは面白くなかったですか?』

 その後の大会でも三段跳が開催される事がすぐ決定されました。しかも跳躍前に拍手をするという、新しい伝統付きで。

 
 今ではすっかり定着した跳躍前の手拍子はここで生まれたのだそうです。よくある質問に表題のようなものがあったので、本人から聞いてきました。

2008.12.18 | 固定リンク | コメント (13) | トラックバック (0)

Comment

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三段跳び、バンクス選手。
コメント書かずにはいられませんでした。

投稿者: WING (Dec 18, 2008 7:06:28 PM)

三段跳びや幅跳び、ジャンプ競技に拍手は付き物だと思っていましたので、目から鱗でした。

けれどなぜ、拍手があると記録が伸びるんでしょうか?

そこ、今度聞いてみてください(笑)

投稿者: 黒丸 (Dec 18, 2008 7:34:53 PM)

三段とびの拍手、見ていてこちら側のアドレナリンも高まるように思います。

人の意識の中にさあこれから行くぞ~~~って気合が入り成績に繋がるのではないかなと考えます??

精神論に繋がっていくように思います!!

投稿者: ムータン (Dec 18, 2008 7:53:54 PM)

三段跳びの拍手にこういうエピソードがあったなんて初めて知りました。始まったきっかけは為末選手の恩師ウィリーさんだったんですね。

投稿者: ペコ (Dec 18, 2008 8:49:40 PM)

トップの大会では跳躍などは拍手が付き物だと常識だと今まで不思議にも感じませんでしたが、このようなエピソードがあったことを初めて知りました。知ってるつもりの陸上競技の世界でも、奥が深いです。まだまだ知らないこともありそうです。

投稿者: まゆ (Dec 18, 2008 9:42:11 PM)

知りませんでした。
そんな経緯があったのですね。
それにしても、棒高跳びや高跳び。
幅跳びの選手としてはどうなんでしょうかね?

投稿者: シロ (Dec 18, 2008 11:57:26 PM)

ウィリー・バンクス選手。とってもステキな方ですね。
人生の中にたくさんの語れる話やドラマを持った人は魅力的だなぁと思いました。
いろいろなものを見て、感じて、考えて、辛いことも乗り越えて、そして、いっぱい楽しんでいる人だからこそ、人の心や核に響く足跡を残したり、いつでも “生きた”話ができたりするのでしょうね。
そして、為末選手はそういった話や魅力を引き出すのが上手…というか、「知りたい」「学びたい」という気持ちで接するからこそ、自然と話したくなる空気があるのかなぁって思いました。

投稿者: たんぽぽ (Dec 19, 2008 12:36:37 AM)

Wow! Willie ☆
It sounds good!

ジャンパーの方のあの拍手を求める裏には、そのような逸話が隠されていたのですね。
さすがはウィリー☆
為末さんを引き寄せるわけです^^☆
本当に素敵な方ですね。
ストックホルムの酔っ払いさん達もびっくりでしょうね^^。
観客が一体となり、競技場に鳴り響き、沸き上がるあの拍手、選手にとってもとっても気持ちがいいものでしょうね☆

パンパンパン♪
《パンパンパン~~♪》
^^☆
こんな時間。おやすみなさい・・zzZ

投稿者: karen-t☆ (Dec 19, 2008 1:25:02 AM)

おぉ!
これはすごい!
非常にためになるお話です。
どうやって自分達の活路を見出すのか。
どうやって競技を盛り上げるか。
その結果の拍手であり、盛り上がりであり、好記録であり。

でも、バンクスさんは競技成績だけでなく、
人間的魅力もすごいのですね。

投稿者: のん (Dec 19, 2008 11:31:18 AM)

うーん。感動です。

会社でも 採算の合わない部門は 潰されて、リストラされることも多いと思いますが

自分の居場所を守る為には 努力も必要だし、でも ほんのちょっとしたキッカケでよい方向に転がることもあるんですね。

ウィリー選手のような パフォーマンス力というか アピールする力も必要ですね。

私も頑張ります。

投稿者: けいこ (Dec 19, 2008 12:53:17 PM)

ジャンプ競技の拍手のいきさつは、三段跳び廃止という
土壇場に追い詰められたウィリーさんの執念が、
呼び込んだ奇跡の策だったんですね。

 『三段跳びは面白くなかったですか?』
顔を紅潮させ興奮し目を輝かせて聞き込むウィリーさんの
姿が浮かんで胸が熱くなりました。

誰にでもできることなんですよね!
成し遂げるまで「諦めないこと!」「努力し続けること!」
肝に銘じます!!
良いお話をいつも聞かせてくれてありがとうございます。

投稿者: ダイ・ハート♡ (Dec 19, 2008 7:36:18 PM)

跳躍競技での拍手に、このようないきさつがあったとは知りませんでした。ほんのちょっとのきっかけが、物事を良い方向へ動かすことになったんですね。きっとウィリー選手の熱意が伝わったのでしょう。
素敵なお話をありがとうございます。

投稿者: しろ (Dec 20, 2008 7:10:07 PM)

素敵な話。いいクリスマスプレゼントとしていただきました。

投稿者: こま (Dec 22, 2008 7:14:05 PM)

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