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2008.04.16

気遣いの効能

 日本人ほど気遣いの長けている民族はいないなと感じています。『僭越ながら』、『若輩者ですが』、『つまらないものですが』。少し日本語を拾っただけでも、へりくだって相手を敬う言葉があちこちに転がっています。へりくだるという行為は、気遣いとは微妙に違うような気もしますが、相手を尊重しているという点では似たようなものだと思っています。その他、末席、上座、名刺の渡し方、エレベータの乗り方、数えればきりがありません。海外からはやり過ぎとも言われますが。

 相手の立場を尊重するところから配慮や気遣いは生まれる事だと思うのですが、これと同じロジックで生まれるものがあります。それは勝負のときの戦術です。この二つは私の感覚の中ではほぼ表裏になっています。
 相手の立場を考えるという事は、その人に不快な思いをさせないよう、心地よくなってもらいたい、という発想が根源になっています。その為に必要な言動を心がけるのが配慮になります。たとえこちらがいいと思っていても、相手にとってそれはどうなんだろうという点に立ち返るかどうかが、おせっかいと気遣いの差です。この辺りのさじ加減はリッツカールトンが一番すごいなと思います。
 さて相手を不快にさせないとはどういう事か。これはつまり相手が潜在的に顕在的に関わらず、望むものを過不足無く用意する事だと思います。そして潜在的に、顕在的に関わらず、望まないものを取り除く事です。これが配慮であり、気遣いだと定義しておきます。深く入れば、敢えて望まないものを与えて気づきを促すなどあるでしょうが、ここでは一期一会のような場面を考えて話を進めていきます。

 勘のいい方はお気づきかもしれませんが、勝負の戦術というのは相手に力を出し切らせないでこちらの力を出し切る、そのバランス加減に出来不出来があります。そのロジックは全く、気遣いと逆なのです。
 相手の欲していないものを用意して、相手の欲しているものを遠ざける。それも潜在的、顕在的に関わらず。その上で自分が最も力を出しやすい方向に向けていくのが勝負時の戦術です。
 これは相手の立場を考えなければなりません。ここがぶれれば結果が全部ぶれてしまいます。決算書みたいなものです。長短あってもいろんなものを歪めます。
 
 例えば私のヘルシンキで言えば、決勝はほとんどが私より若い選手でした。試合の状況は悪天候で、今まで経験した事がないものです。こういう状況のときには、転倒の可能性を伴うハードルという競技特性上、前半は申し合わせたようなペースで走りたいと思うものです。特に経験が少ない若いときには。
 相手の立場に立って、そうだよね、走りやすいペースで走ろうね。としてあげるのが配慮だとすれば、そうだよね、だったら前半からとばしてかき乱してあげる。というのが戦術になる訳です。元は同じ、相手の立場を考える事から生まれます。

 しかしながらこういった戦術が全く通用しないタイプがいます。それは戦術を持たない選手です。その場に起きた事にただ対応するだけで、後は何も考えないで競技するタイプです。こういう選手の心理を読んでも、裏の裏が表になるだけで、結局自分の策に溺れてしまいます。ですから、まず策を練るタイプかどうかというのも重要なポイントになります。多少なりとも、不安を感じるタイプであれば策は通用します。

 とにもかくにも相手をよくよく知って、そして常に相手の欲する所を考える。そんなところから戦術は生まれるのではないでしょうか。
 そして勝負時の戦術には特に必要な事が一つあります。それは自分を知る事です。その戦術を選んだときに自分の力を発揮できない度数が、相手の力を発揮できない度数よりも大きくなるのであれば、この戦術は選んだ意味がないどころか不利になります。ですから、自分にできる範囲で相手に不利益を与えるところを考えるのが重要なのです。

 スポーツは戦ではありませんから、ここに正々堂々としたスポーツマンシップが加味されます。潔く自分に恥じる事無く、自分にとって最善で相手にとっては最悪の戦術を選べるかどうか。もしかすると日常生活の配慮の裏にヒントがあるのかもしれません。

2008.04.16 | 固定リンク | コメント (13) | トラックバック (0)

Comment

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気遣い・・・ 一線を越えてしまうと暑苦しくなる。
日本を離れると自分達がどれだけ相手に気を使っているかがはっきりとわかります。「こんなものしかなくてすいません」とお土産を渡すときに言う方がいます。受け取ったホストマザーは彼女が何故そういうことを言ったのか理解できず首をかしげてしまい気まずくなりました。英語圏にはそのような細かい感情を表す言葉がないため日本人は戸惑うのです。
ここ5年はそういった言葉の違いにも慣れて日本人離れして
います。本題からずれてしまいましたが気にせずに 笑

投稿者: ポン酢 (Apr 16, 2008 7:50:50 PM)

現在は指導者である森下広一さんも、
 「レースにおける相手との闘いでは,気持ち・ハートっていう部分は重要だ」
というようなことを以前からおっしゃっていました。

最終的には,戦術どおりに動けるか、相手の心理を察して、相手に弱気を見せずに、自ら行く…そういったものが勝利に繋がるんでしょうね。

投稿者: あすれ (Apr 16, 2008 7:52:34 PM)

ヘルシンキのことは為末さんの本でも拝読しました。オリンピックの決勝でそんなことを考える余裕があるとは…すごいですね。happy02

投稿者: ディープ (Apr 16, 2008 9:44:52 PM)

感が悪いのでなかなか気づけませんでしたが、、、
過不足なく自分を評価(判断)すること。
その辺が出来れば超1流なんでしょうね。
戦術を持たない選手、、、本当に完全に強い人?

投稿者: WING (Apr 17, 2008 9:39:14 AM)

昨日から、何度も拝読しては、その都度、感心しておりました。
そして、さようです、ニヤケテおりました。絶好調に。
いや、もはやニヤケはかわいいものです。
ワタクシなにやら、PC相手にお喋りしている自分にふと気付いてしまったのです。
ドウシテクレマショウ。

それにしましても、相手の立場を尊重する配慮や気遣いといったものから、勝負時の戦術としてのロジックを生み出すなんて・・
面白い。ほんとに面白いです。
なんとも為末さんらしいです。
正々堂々としたスポーツマンシップとしての説得力が感じられます☆

今日は雨、でも・・^^。
また。


投稿者: karen-t☆ (Apr 17, 2008 10:59:07 AM)

いつも楽しく読ませてもらってます。
今日も「なるほど~!」って思いました☆
自分はまだまだ戦術とか考えれる段階ではありませんが
心にとめておきます!!!

投稿者: らいおん丸 (Apr 17, 2008 4:18:51 PM)

分からないこと、教えて頂きたかったことが色々とあったのですが、やはり差し控えます。
潜在的にも顕在的にも、大切な戦術ですから。

『気遣いの効能』を読み終え、直ぐに感じたこと、それは“武士道の精神”でした。
何度か読み返しました。
武士道の精神の“美学”を感じました。

日本人の持つ相手の立場を尊重する気持ち、そこからくる配慮、気遣いといったものは、どこか“武士道の精神”にも通じます。
日常にあるこれらを大切にできるからこそ、裏側の心理も読み取れた戦術が図れるのでしょうね。
為末さんの戦いの術には、やはり、どこか根底として“武士道の精神”を感じます。
勝負の美学と申しますか・・

合宿頑張って下さいね☆
今日17:00から『週末ランニング部』ですね^^☆


投稿者: karen-t☆ (Apr 18, 2008 8:08:31 AM)

戦術。大事ですね。戦略も大事ですが。
で、ビジネスの話になりますが、
日本のサービスは諸外国に比べ劣っている
ということが書いてあるマーケット本がありました。
僕にとっては意外なのですが、かいつまんで話すと、
外国のサービスはお客様が本当に喜ぶであろうことを従業員一人ひとりがきちんと自分で考えてやっていると。
一方日本のサービスはマニュアル化された心がこもってないものが多いと。
言われたとおりやればいいんでしょ?的なものでしょうか。
確かにそうねぇ、と外国にいった経験がない僕は思ってしまったのですが、
海外転戦が多い為末さんはどう思われますか?
ちなみに、その本もリッツカールトンはすごい!と絶賛しておりました。

投稿者: のん (Apr 18, 2008 2:37:08 PM)

成迫選手との激突頑張ってください。

投稿者: ミッチー (Apr 18, 2008 5:12:06 PM)

自分のことを言われている、ような感じがしました。人生頑張ります。為末さんの分についてのコメントは心遣いの効用は、相手を知る事なのかと思いました。

投稿者: ミッチー (Apr 18, 2008 5:54:08 PM)

自分のことを言われている、ような感じがしました。人生頑張ります。為末さんの分についてのコメントは心遣いの効用は、相手を知る事なのかと思いました。

投稿者: ミッチー (Apr 18, 2008 5:54:09 PM)

今日はたくさんの楽しいお話ありがとうございました☆
うちの旦那君見かけたらどうぞよろしくおねがいします(^^)
ゴー ペキン!!

投稿者: seiko (Apr 18, 2008 8:24:43 PM)

深いですね
単に、他者より速く走れば良いという訳では無いのですね(^-^)
この戦術、トッパにも通じますか(^o^;)

投稿者: ハードル王子のオカン (Apr 22, 2008 7:28:50 PM)

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