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2005.10.17

計画2

 さて、いよいよ具体的な計画を立てていきます。私の場合、年間のピークに向けて期分けというものを行います。具体的な目標の時期から逆算して、いろいろな時期を組み合わせていくのです。

 まず8月中旬をピークにすると設定します。そうすると私の場合、技術的なものが洗練されてくる為に3ヶ月ほど時間を要しますので、試合に近い形の体を目指すのは5月中旬となります。その試合に近い形の体を作る為には、実戦形式の練習、スピードトレーニング、技術練習などが必要です。これには2ヶ月ほどかかります。つまり3月から4月いっぱいです。大体ここまでが試合期と言われる時期で、実際に試合期に入ってしまうと大きな技術の修正という事はできません。料理でいえば、ほとんど出来上がった状態の最後の味付けがこの時期になるわけで、ここから材料変更や調理法変更などは不可能なのです。ですので陸上競技において大きな技術の修正、体つくりを行えるのはこの前の時期、つまりシーズンを終えて2月いっぱいまでという事になります。陸上競技がスタートするまでで勝負が決まると言われるのは、こういった特徴をさしているのです。

 ではこの冬期トレーニング(陸上界ではそう呼ばれています)はどのように過ごすのでしょうか。私はまず最初の1ヶ月で有酸素トレーニング(形態はあまり気にしませんが脈拍150~180ぐらいで)を集中して行います。ウエイトトレーニングは一切しません。それからこの最初の1ヶ月の時期にゆったりとしたスプリント(走る)を行います。
 有酸素トレーニングは、これ以降のきつい練習で、怪我や心肺機能が原因で中断なんて事がないようにトレーニングの為のトレーニングをする為です。それからゆったりとしたスプリントは、本格的に走る前に、つまり走りまくって動きが固まってしまう前に、理想の動きを確認しておく為です。いったん本格的に走り始めると、競技者はある方向に向かって突き進む事になります。もし間違った方向を向いているとしたら、それは競技力向上はおろか、自分の走力を衰えさせる事にもなりかねません。この時期にどこに向かうのかをしっかりと確認する為にゆったりとした走りで自分のコンセプトを染み付けていくわけです。

 1ヶ月ほど経ったら、今度は本格的なトレーニングに入ります。ここからは私、独自の理論なのですが、冬期トレーニングは『動きを鍛える』という事を軸にしていきます。こうすれば速く走れるという動きを一つづつ抜き出してその部分を鍛え、最後に組み立てるとう作業をするのです。車に例えるなら、こんなことができるかどうか分かりませんが、一度部品をばらして、その部品を鍛えなおしてもう一度組み立てる、といった感じです。
 今年の私のコンセプトで言えば、「地面への圧力を高める」です。地面への圧力を高めるには自分で踏みつける事も大事ですが、自分の体重を使うのが一番効率が良いのです。「自分の体にある位置エネルギーを地面に全部伝える」。これを意識して行います。空中から落ちてくる自分の体重と、さらに自分から地面を積極的に踏みつけにいき、それで圧力を高めようという魂胆です。
 けれども走るという作業は片足だけで行っていません。地面を踏んでいる足と反対の足、これも鍛えなければならないのです。片足で地面に圧力を加えるという作業は、反対の足を意識して引き上げる事によって助長されます。シーソーの片方を勢いよく上げれば、もう片方が地面に叩きつけられるという場面と同じです。ですので、地面を踏む足と同時に引き上げる足の出力も高めていきます。
 腕振りというものもあります。腕も地面に圧力を加える事に十分役に立ちます。腕もうまく使わなければいけません。ブランコで勢いをつける時に全身で浮き沈みをしたあの感覚。あれを使って一歩ごとに腕、足、胴体で地面に圧力をかけていくのです。

 技術論は書かないと言いながら、ついつい熱くなってしまいました。実はこの動きを鍛える時期は2月終わりまで続きます。私の年間計画は大きく分けて試合期、シーズンオフ、有酸素の時期、動きを鍛える時期の4期しかありません。もちろん細かく分ければもう少しありますが、私、個人の信念として、生理学的なものは余り重要視しないようにしています。

(さらに続きは次のメールへ)

2005.10.17 | 固定リンク | コメント (14) | トラックバック (4)

Comment

テーマと関係のないコメントは削除させていただきます。

陸上関係無知な私ですが、読み物的に
おもしろくて、参考になりました。
物事の考え方、考察というのでしょうか?
参考になります。

投稿者: リュリュ (Oct 17, 2005 9:58:15 AM)

為末さま

こんにちは。

私も自重を・・と言うことでトレーニングしておりますので参考になります。

シーソーの表現、良かったです。^^

次回を楽しみにしております。

投稿者: Takahiro (Oct 17, 2005 10:39:45 AM)

為末さん、こんにちは。
今更ながら、プロのトレーニングの綿密さを再認識しました。
人より秀でた能力に、更にいろんな力を付け加えていくのですから強いはずですね。
試合に向けて、体を作り上げていき能力も高めていくのですね。
為末さんのトレーニングを読んでますと
ただのOLの私も、肉体改造したくなってきます。
今日からのジムでのトレーニング方、変えてみようかしら?

投稿者: 聡子 (Oct 17, 2005 11:15:30 AM)

こんにちは。

神戸でのシンポジウム、新潟での陸上イベント、お疲れさまでした。
(実は今月遅い夏休みをもらっていたので、両方のイベントに参加させて頂くことができました)

<計画>の項でおっしゃっている失敗原因の洗い出し、方向性の明確化、最適な目標設定…
これはまさに仕事を行なう上で、常に心がけていることです。スポーツの世界も同じなのですね。

そして、<計画2>では、凡人では想像すらつかない高度な理論と実践方法にただただため息…。

新潟では「自分が世界一になれる確率は1%もないと思うが…」とおっしゃっていましたが、
こういった記事を読ませて頂くと、ヘルシンキでのメダルは“奇跡”などではなかったということ、
そして将来、世界一になれる可能性を充分に秘めておられる方であることを強く感じます。

神戸では、欧州での運動会のような陸上大会、サンフランシスコの医療費のお話から、
30m走日本一の選手(!)のお話まで聞くことができ、とても楽しいひとときでした。
「人生において必要なことは、全て陸上から学んだ」という締めの言葉にしびれました!

為末さんのお話は、軸ブレのない理論、地道な研究や実験に基づいたものであり、
そしてそこに抜群のユーモアエッセンスが加わっているために、説得力があって楽しいのでしょうね。

投稿者: すなふきん (Oct 17, 2005 1:03:15 PM)

こんにちは☆
なんだかとても深いお話ですね。陸上のすごさを感じました。文系の私にはちょっと難しいです…。もう一度じっくり読み返したいと思います。詳しいお話を聞けると試合を見るのがより楽しみです。失礼ですが陸上競技を単純なスポーツだなと思っていました。100mは追いかけっこでハンマー投げはボール投げといった感じで、為末さんのブログを読むまで陸上のことを軽んじていました。こんなにも奥が深いことなど想像もしていませんでした。驚きました。物の考え方なども多く含まれていてただただ驚きです。これからはより陸上を見るのが楽しみです。大阪の世界陸上はぜひ見に行きたいと思います。

投稿者: ゆうき (Oct 17, 2005 2:10:54 PM)

すなふきん さんが書いてらっしゃる、「30m走日本一」が誰なのか気になります。

為末さん、あるいは すなふきんさん、差し支えなければ、誰なのか教えていただけませんか?

為末さん、九州にも是非、来てください、というか依頼がないと実現しませんょね。 スミマセン…

投稿者: 初 (Oct 17, 2005 4:36:25 PM)

今日のyahooニュース拝見して、HPにきて見ました。
あの金丸君の弟子入りする!とか書いてあってびっくりしましたが、HPを見てみると納得しました。

社会において、年功序列関係なく目的に向かってがむしゃらに学ぶ人って少ないので、尊敬しちゃいます。

トレーニングがんばってくださいね!

投稿者: kanaria (Oct 17, 2005 5:58:30 PM)

再びお邪魔します。

 >初さん
ごめんなさい!30mの話は、私のメモに「→ナイショらしい」と書かれていました。
なのでヒントを。
スプリンターは後半のスピードアップのために日々鍛錬しているので、30mのような短い距離ならば、他の競技選手の方が早かったりするそうです。
なので地域スポーツ大会などで様々な距離の種目を作れば、誰でも勝つチャンスがある…というようなお話だったと思うのですが、こんな感じでいかがでしょうか。

 >為末さん
失念致しました。あんな書き方をしたら、皆さん気になってしまいますよね。申し訳ありませんでした。

投稿者: すなふきん (Oct 17, 2005 6:11:42 PM)

為末さんこんばんは。
文章読んでてわくわくしました。
論理的に積み上げて実行するってやっぱりなんにでも共通ですね。私は楽器を習っているんですがただ漠然と弾いていたことを反省しました。
次回も楽しみにしてます。

投稿者: にゃりん (Oct 17, 2005 8:06:25 PM)

為末選手、こんばんは!

熱き心の伝道師です。

やぱりすごいですね!世界レベルの方は!

さらっと書かれているようですが、プロの凄みを感じます。

技術的なことに重点を置いているのですね。

練習、頑張って下さい!

投稿者: 真の成功☆熱き心の伝道師 (Oct 17, 2005 10:25:03 PM)

はじめまして。
為末君の年間のトレーニングは大変参考になりましたが、ウェイトトレーニングはどのタイミングで行うのですか?冬季トレーニングで行わない理由はなぜですか?

投稿者: たいぞー (Oct 17, 2005 11:00:06 PM)

今年の7月下旬に金沢21世紀美術館でマシュー・バーニーの『拘束のドローイング』と言う個展を見に行きました。
身体に拘束、抑制を与えてドローイングを行うシリーズで(全9シリーズ)、拘束や抑制に対する抵抗が創造を生み出す、負荷をかけることで生まれる異常なエネルギーがアートを生み出すと言うようなパフォーマンスアートです。(具体的に話すと長くなります。カット。)私はその時、ひとつの観念でしか見れなかった為あまり理解できなかったのです。
為末さんの計画1、計画2の『動きを鍛える』お話、『地面への圧力を高める』お話等、とても解りやすい説明で感心しました。
デリケートな競技なだけにデリケートな計画なんですね。そしてなんと言ってもデリケートな『身体』。あまり今まで意識しなかった身体が『身体』というひとつの小宇宙を感じました。
今だったらあのバーニー展も理解できそうです。
為末さんのアスリートの美学には魅せられっぱなしです。 早く生の走りが見たいなぁ。

投稿者: reset (Oct 18, 2005 2:32:49 AM)

為末さん、こんにちは♪

前回の、『計画』に続き第②弾である『計画2』。
そして、さらに続きは次のメールに・・・
となっているトコからしても、為末さんの陸上への
思いをとっても強く感じました☆

目標の形に仕上がる為には、2~3ヶ月それぞれの
トレーニングにかけていらっしゃるんですね☆

私は体のラインを引締める為の腹筋でさえ、
1ヶ月毎日続いたコトがないので、
為末さんは陸上だけでなく、ご自身の哲学的な
考えなどもステキだなぁって思っていましたが、
『計画①・②』を読んで、為末さんが世界の選手なんだ
ってコトを、改めて感じました☆★☆
ふつーの学生の私なんかと比較してすみません△

最後の、生理学的なもの、というのはどのような
コトなのでしょうか??
陸上競技はやったコトのない私にも、いろいろな例を
交えた説明で、読んでいてとっても分かりやすくて、
最近どんどん興味が増しています☆
『計画』第③弾も楽しみにしています♪

トレーニング応援しています!頑張ってください☆★☆


投稿者: はな (Oct 18, 2005 2:05:51 PM)

為末さん,こんにちは(^▼^)

シーソーとブランコの例え方が物凄く自分の中でタメになりました!!私は部活や大会でハードルをやってぃて,なかなかハードルとハードルの区間でのスピードが出せないので,それを意識してチョットやってみよぅと思いマス♪(^U^)

コレヵラも練習頑張って下さぃ☆★(●'▼')/

投稿者: あき (Oct 18, 2005 5:58:40 PM)

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